私の尊敬する二人のピアニストは、パンデミックが起きる何年も前から、必要に応じてシアトル/ベルビューからアジアや東海岸に住む生徒たちとオンラインレッスンをしていました。そのため、対面からオンラインレッスンへの移行には抵抗を感じることはありませんでした。むしろ、生徒たちが世界中にいてもレッスンができるという可能性を信じていました。そして、ロックダウンが始まったことで、自分自身でもそれを試すきっかけとなったのです。
ワシントン州でロックダウンが発令されると、子どもたちのアクティビティはすぐにオンラインに移行しました。学校や楽器のレッスン、そしてダンスレッスンなどもです。いうまでもなく、私のスタジオも迅速にオンラインに切り替えました。アメリカはその点で柔軟な国であり、変化に対応する能力が高い印象を持ちました。もしかすると、住んでいる街がアマゾンやマイクロソフトなどのIT企業の本社が近く、スタジオにも関係者が多かったのもあり、準備も負担にならなかったのかも知れません。
生徒たちにとっても初めてのオンラインレッスンでしたが、新鮮な気持ちでレッスンに取り組んでくれました。そして、多くの発見がありました。手元が見えるように2台のカメラを使用し、頭上から鍵盤を映し出すアイディアは素晴らしかったと思います。対面レッスンでは、まずそのような角度で講師の手の動きを見ることができないからです。また、私と生徒が同時に2台のピアノを使ってレッスンすることで、効率も上がりました。生徒たちが普段どのような環境で練習しているのかを見ることができる貴重な機会でもありました。
レッスンとは直接関係ありませんが、普段お仕事をされたり幼いお子さんを抱えている忙しい保護者の方々が、レッスンに来るために夕方の交通渋滞に巻き込まれずに済んだことは時間の節約になりました。もう一つ、技術的な話ですが、オンラインレッスンを通じて気づいたことは、生徒たちの動きを観察しながら音の出方を想像することが容易だったということです。スピーカーを通して音を聴くとどうなるのかという質問をされる事はよくありますが、正直に言うとスピーカーの音だけに100%頼ることはできません。音色は手や腕の使い方からほとんど分かるのは嬉しい発見でした。
2021年の夏、アメリカの状況が改善されず不安な日々を過ごしていた時、闘病中の義父が亡くなりました。夫は傷心の中で、日本で働くことを提案してきました。以前にもこの話は度々出ていましたが、私には30人の生徒を置いての引っ越しなど到底考えられませんでした。しかし、ロックダウン中は全てが非日常的で、外出が制限され家に篭っている反動か、「やろうと思えば何でもできる」「人生は一度きり」とチャンスがあるなら波に乗りたい気持ちも高まっており、夫の就職先が見つかれば移住を考えるという決断をしました。けれどもそのタイミングで、友人を通じて日本企業の紹介があり、何回か面接をさせていただき、驚くほどスムーズに就職先が決まってしまったのです。この急な展開に、私たち夫婦はついていけない状況でしたが、一番反対しそうだった息子が日本移住に反論もなく、そうして家族の意思も固まりました。
物事はタイミングが全て。何か大切な事、例えば転職や引っ越し、結婚などを決断する際に、信じられない程物事がスムーズに進む時は、神様からのゴーサインだと信じています。なので、生徒のことが心配でしたけれど、この機会を逃してはいけないと言う気持ちが大きかったのです。一番気に掛けていたスタジオの事ですが、11月には生徒に引っ越しについて話し始めました。結果的に半数の生徒がアメリカと日本の遠距離レッスンにサインアップしてくれました。2021年2月には移住して1ヶ月後、日本からのオンラインレッスンを再開することができました。
田園都市線「たまプラーザ駅」から徒歩17分、あざみ野行きのバスを使うと往復の坂道も楽です。「あざみ野駅」からは徒歩20分、こちらもバスをお使いになる事をおすすめします。
ピアノを勉強する生徒さんであれば、左手の重要さはレッスン中に先生から頻繁に聞くことの一つだと思います。私もそれを言う講師の一人で、生徒さんには左手の練習方法やどれだけ重要かと言うことを口を酸っぱくしてお伝えしています。生徒さん側からしたら、頭ではわかっていても、中々うまくコントロールできない事が多いです。左手と右手の力加減のバランスが取れなかったり、それ以上に演奏中左手がどれだけ脱力しなければいけないのか加減が難しいのだと思います。私もかつてはそうでした。さて、今回は左手が伴奏の場合の力加減や練習方法などのお話です。