バイリンガル育児のリアル−アメリカ⇔日本で息子はどう成長した?

アメリカ生まれ—3歳までは英語オンリー

息子は現在11歳。ワシントン州で生まれ、小学3年の1月から日本で暮らす小学6年生です(2023年8月時点)。父はアメリカ・ロサンゼルス生まれのワシントン州育ち、私は神奈川県横須賀市生まれの生粋のスカっ子。そんな私たちの家庭でのバイリンガル教育について、個人的な経験をもとに綴っていきます。

ゆるゆる日本語教育開始

息子が生まれたとき、私たちの日本語教育は特に厳しいものではありませんでした。そもそも日本に移住することすら考えていなかったのです。しかし、周りの日本人家庭を見ると、お母さんは日本語オンリー、お父さんは英語オンリー、テレビは日本語のみという徹底した環境を作っているご家庭もあり、その熱意には感心するばかりでした。

息子が3歳のとき、日本人が多く住む地域に引っ越したのを機に、週2回の日本語プリスクールに通わせました。さらに、日本語補習校の幼稚園にも入園。小学校に進学すると宿題が増え、日本語への興味が薄れていくのがはっきりとわかりました。ある時、「英語のほうがテンポがよく響きも心地よいので、男の子は日本語を話すのが面倒になる」と聞き、まさにその通りだと実感。補習校を続けるか悩んでいた矢先、パンデミックが起こり、その後日本への引っ越しが決まりました。

日本での英語維持:帰国子女の課題

日本での生活が始まるとすぐに「帰国子女アカデミー」という英語塾のオンライン授業の受講を開始し、英語を維持する環境を整えました。ここは授業の質が高く、夫も私も信頼を寄せていました。おかげで息子は現地校の英語レベルを維持することができました。

アメリカの友達とはPCゲームやディスコードで毎日交流。これは息子にとって最大の楽しみでありながら、無意識のうちに英語力を保つ助けにもなっています。ネットスラングや現地のティーンが使う生きた英語(良くも悪くも)にも触れられるため、仮にアメリカに戻ってもすぐに馴染むことができるでしょう。

バイリンガル教育の戦略

バイリンガル教育において、一つの言語をしっかり伸ばし、語彙力や読解力を高めることが大切だと考えています。第二言語は母語の能力を超えるのが難しいため、どちらも中途半端になるより、まずは強固な基盤を築くことが重要です。

私自身も第二言語を日常的に使って生活しているからこそ、子どもが「言葉を論理的に使える力」をつけることの大切さを痛感しています。自分の意見を明確に伝えられることは、将来どの言語を使うにしても大きな武器になるはずです。

日本語力の成長:帰国後の変化

日本では公立小学校に転入。シアトルで通っていた補習校のおかげで授業にはついていけましたが、絵の具や習字、鉄棒、縄跳びなど、日本ならではの活動には少し苦労しました。しかし、友達との会話が増えるにつれ、日本語力もどんどん向上。若い世代の流行りの表現を覚えたり、敬語も使い分けられるようになりました。

帰国子女にありがちなのが、日本語の話し言葉が母親から学ぶため、どうしても女性的な言い回しになること。息子も例外ではありませんでしたが、学校に通ううちに自然な日本語に変わっていきました。

「国語力」の面では、話せても書くことはまた別のスキルです。文章問題になると、計算はできても答えを書けないことがありました。漢字のテストも、決まった範囲なら満点でも、ランダムに出題されると苦戦。本を読む習慣がないことが影響していました。

小学校高学年での飛躍

5年生頃から作文力が伸び始め、思いを言葉で表現できるようになりました。音読のスピードも向上し、放送委員の活動が大きく影響しているかもしれません。

学年初めの委員会決めで、放送委員になりました。けれども、最初は読めない漢字や理解しづらい言葉に苦労し、大変な思いをすることに。時には涙することもありましたが、努力を重ねるうちに徐々に慣れ、卒業する頃には流暢にアナウンスができるようになりました。

バイリンガル教育のゴールを決める

以前、プリスクールでお世話になった先生に、「日本語を学ばせるならゴールを決めましょう」と言われました。バイリンガル教育は親子ともに負担が大きいため、終わりを決めないと疲れ果ててしまうのです。

「日本語をどのレベルまで伸ばすのか」「どの時点で補習校をやめるのか」「大学進学をどうするのか」「将来の仕事で日本語を使うのか」——こうしたゴールを明確にすることで、学習環境も整えやすくなります。

帰国生受験とこれから

現在は帰国生中学受験を視野に入れています(2023年終了)。夫は受験を支持しつつも、公立中学進学の選択肢も考えています。彼自身がベルギーで過ごした5年間、フランス語を学ぶ機会を逃したことを後悔しているからです。

日本に移住したのも、息子に日本語をしっかり習得してほしいという思いがあったから。息子にとって、日本での生活はかけがえのない経験になっています。

バイリンガル教育は難しい

国際結婚の家庭では、親の都合で国をまたぐ引っ越しが避けられません。そんな中で、子どもが将来困らないように言語の選択をするのは大きな課題です。

バイリンガル教育に正解はありません。ですが、環境を整え、ゴールを定めることで、子どもにとって最適な学習方法が見えてくるのではないでしょうか。

rieando

はじめまして、安東理恵です。 桐朋学園大学を卒業後、90年代に渡米。2021年に帰国。現在もリモートでアメリカ在住の生徒たちを教えています。 email: rieandopiano@gmail.com

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