リモートレッスンは上達できるのか?

リモートレッスンに対して、先生と生徒の距離感や音の質感など、多くの懸念があるかもしれません。スタジオではリモートレッスンを始めて5年になりますが、当初は長期的にリモートで教えることに不安を感じていました。特に、生徒が本当に上達するのかという点が気がかりでした。音の問題や距離があるからです。

しかし、5年経った今思うのは、結果を出すのは結局本人のやる気と練習次第だということ。そしてもちろん、生徒に合った指導があってこそ。その点は、対面レッスンと何ら変わりありません。教え方に工夫が必要な部分もありますが、最終的に何を吸収し、自分のものにできるかは、生徒自身の努力と練習量にかかっています。

どんな状況でも上達するために 〜ポーランドで学んだこと〜

渡米後、3年ほどポーランド人ピアニスト、Paweł Skrzypek氏に師事しました。当時先生は、アメリカとポーランドを行き来しながらコンサートやマスタークラスを開いており、滞在先まで飛行機で向かい、1回5時間ほどのレッスンを連日で受けることもありました。夏にはポーランドのグダニスクやアメリカのサンフランシスコで開催される音楽祭に参加し、充実した時間を過ごしました。

グダニスクでのキャンプでは、毎日レッスンを受講し、いくつかの公開演奏も経験しました。ある日、先生から翌日までにショパンのバラード第1番を譜読みしてくるように言われ、すぐに練習を始めることに。しかし、練習室にはグランドピアノではなく、アップライトやスピネットピアノ(背丈の低い小型のアップライト)しかありませんでした。そんな状況でも先生は、「どんなピアノでも同じだよ。練習できるだけでありがたいんだ。僕も若い頃はどんなピアノでも練習したよ。」と励ましてくださいました。

この言葉は今でも心に残っていて、それ以来、どんな環境でも最善を尽くすという気持ちを持ち続けています。この経験から、環境に左右されずに努力を続けることが、上達には何より大切だと実感しました。

リモートレッスンも同じで、対面かどうかよりも、生徒の意欲と日々の練習が結果を決めます。どんな状況でも、与えられた環境の中で最大限の努力をすることが、最も大きな成長につながるのです。

結局のところ

数年間のリモートレッスンを経て、確信したことがあります。それは、上達したい、結果を出したいという強い意志があれば、どんな状況下でも実現できるということです。

いくら素晴らしいピアノで毎日練習しても、毎週対面で優れた先生に教わっても、本人のやる気がなければ限界がきます。逆に、練習する楽器がSpinet pianoでも、小さな部屋でも、強い意志を持ってしっかり練習すれば、美しい演奏を作り上げることが可能です。

とはいえ、「良い先生」や「相性の合う先生」は上達のための重要な要素です。そして、自分の音をしっかり聴く耳を持つことも欠かせません。

対面レッスンとリモートレッスンの違い

生徒の性格によって、対面レッスンが向いている場合もあれば、リモートレッスンのほうが適している場合もあります。対面の方が集中できる生徒もいれば、リモートの方がリラックスして実力を発揮できる生徒もいます。

どちらの方法であっても、最も大切なのは、**「弾きたい」「楽しい」「もっと上手になりたい」**という意欲です。特に小さなお子さんの場合、リモートレッスンではご家庭のサポートがより重要になります。自宅でのレッスンはリラックスできる反面、集中力が続かないこともあるため、保護者の方が見守り、時にはフォローすることで、より良い学習環境が整います。

リモートの利点は「自宅で学べること」です。忙しい保護者の方にとっては、送り迎えの負担がなくなるという大きなメリットがあります。また、ご家族の体調不良などで対面レッスンに通えない場合でも、リモートなら問題なくレッスンを継続することが可能です。その一方で、気持ちが緩みやすいというデメリットもあります。そのため、講師としては、生徒の集中力が切れていると感じたら、ちょっとした雑談を挟んで気分転換を促したり、レッスンの進め方を柔軟に調整することも必要です。生徒との信頼関係を築いていれば、リモートでも対面と同じように良いレッスンができます。

結果は出ます

ある年の春、生徒さんの一人がローカル音楽祭で素晴らしい結果を残しました。この生徒さんは、初心者の頃から長期にわたりリモートでレッスンを受けてきました。結果を聞いたとき、私の中にあった「長期的なリモートレッスンで本当に成長できるのか?」という不安がすっと消えたのを覚えています。

対面レッスンでスタートしていたとしても、彼女の才能と努力は変わらなかったはずです。しかし、リモート環境の中でも真面目に練習を続け、アドバイスを吸収しながら成長していった結果、素晴らしい成果を出せたのだと実感しました。

長期休暇には対面レッスンにも来てくださるようになり、初めてお会いしたときも、違和感なく自然にレッスンを進めることができました。毎週リモートで顔を合わせていると、実際に会ったときにも親しみがあり、まるで以前から対面でレッスンしていたかのように感じられました。

まとめ

レッスンの方法はさまざまですが、やはり一番大切なのは**「好き」**という気持ちです。そして、その「好き」を支えるご家族のサポートも大きな力になります。この生徒さんを見ていると、それを強く実感します。

講師である私の役割は、画面越しであっても、生徒の小さな変化を見逃さず、直すべきところは徹底的に指導すること。妥協はしない。音楽に、生徒に真剣に向き合いながら、良い時間を作ること。

楽しいレッスンは、「好き」をもっと大きく膨らませることができると信じています。


rieando

はじめまして、安東理恵です。 桐朋学園大学を卒業後、90年代に渡米。2021年に帰国。現在もリモートでアメリカ在住の生徒たちを教えています。 email: rieandopiano@gmail.com

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