リモートレッスンで上達する?

方法は色々。本人のやる気と練習次第。

リモートレッスンに対しては、先生と生徒との距離感や音の質感など、多くの懸念があると思います。スタジオではリモートレッスンを始めて4年になりますが、最初は長期的にリモートレッスンをする事に対し、少なからず不安を感じながらレッスンを進めてきました。特に気になっていたのは、生徒がリモートレッスンでは上達しないのではないかということでした。前述したように、音の問題や距離があるからです。けれども、4年経った今思うことは、結果を出すのは本人のやる気と練習にかかっているということです。そしてもちろん、その生徒や状況にあった指導があってこそ。その点、対面レッスンとなんら変わりはありません。教え方には工夫が必要な部分もあるかも知れませんが、生徒が何を吸収し、自分のものにできるかどうかは、本人のやる気と練習量にかかっています。

ポーランドで学んだ一つのこと

渡米してすぐに、3年ほどポーランド人ピアニストに師事しました。先生はアメリカとポーランドを何ヶ月かに一度行き来してコンサートをしたり、マスタークラスを開いたりしていたので、滞在先に時には飛行機で飛んで行き、一回5時間くらいのレッスンを何日か連続で受けていました。夏にはポーランドのグダニスクやアメリカのサンフランシスコで開催されていた音楽祭に呼んでいただいたので、2、3年連続で参加しました。少し話が逸れますが、もし今だったら、3ヶ月分の曲を一気に持っていく代わりに、リモートレッスンで定期的にレッスンすることになっていたでしょう!

ポーランドのグダニスクで参加したキャンプは2週間ほど続き、毎日レッスンを受講したり、何回か公共の演奏があり、とても充実した時間でした。あるレッスンで先生から、翌日までにショパンのバラードの1番を譜読みしてくるように言われ、すぐに練習に取り掛かる必要がありました。その建物にはレッスン室はありましたが、グランドピアノは置いておらず、アップライトかそれよりも小さいSpinet pianoが置いてありました。先生は「ここには小さいピアノしかないけれど、どんなピアノでも同じだよ。練習できるだけ良いんだ。僕も若い頃はどんなピアノでも練習した。」と仰ったのです。その言葉がなぜか印象深くて、それ以来その言葉に支えられていた気がします。それから、あるレッスン室にあったSpinet pianoで何時間か勉強し、フラフラでしたが(!)無事レッスンに持っていくことができました。

結局のところ

3年間のリモートレッスンを経て、上達したい、結果を出したいという欲求は、本人の「弾きたい、楽しい、もっと上手になりたい」という意欲があれば実現できるし、どんな状況下であれ可能なのだと改めて思い始めています。素晴らしいピアノで日々練習できても、毎週対面で優れた先生に教えてもらっても、やる気がなければいつか限界がきます。逆に、練習する楽器がSpinet pianoであっても、小さな狭い部屋であっても、強い信念を持ってしっかり練習すれば美しい演奏に仕上げることが可能です。ただし、どんな状況下でも「良い先生」「相性の合う先生」は大切な条件の一つです。そして、自分の音を聴ける良い耳を持つ事も。

もちろん、生徒の性格によっても対面でのレッスンが適している場合もあれば、リモートが向いている場合もあります。やる気のベクトルが対面に向いている場合、その方が練習に身が入るし、元々持っていた才能やスキルがより発揮されるのです。でも、私のようにどちらでも良いと言う人間は、自分のやる気次第でリモートでも対面同様の結果が出易いと思います。それには少しスキルがいるのですが、自分が十分に知識と経験を持っていれば成功すると思いますし、小さなお子さんの場合は、やはり保護者の方のサポートが重要になってきます。対面でも同じですが、リモートの場合は自宅でのレッスンでお子さんがリラックスし過ぎることがあるので、年齢によっては保護者の方がレッスンを見守り、レッスン中の様子を伺っておくことが大切です。リモートの利点でもある「自宅でのレッスン」と言うのは、お子さんがリラックスし過ぎてしまうと言う点では欠点にもなってしまいます。講師である私の方は、ちょっとエネルギー切れかなと思う時は、全く関係のない学校の話を振ってみるとか、楽しい話をして頭を切り替える時間をあげると解消する事が多いです。どんな風にも対応できるには、やはり普段から生徒さんとの信頼関係を築いておくことが大切だと思います。それもやはり、対面でもリモートでもどちらでも出来る事の一つです。

結果は出ます

今年の春、生徒さんの一人がローカル音楽祭で良い結果を出すことができたのですが、これはとても嬉しい報告でした。と言うのも、この生徒さんは初心者だった2020年の夏からずっとリモートでレッスンを受けてくださっているからです。嬉しい報告を聞いた時、私がいつも心の奥に抱えていた不安、長期リモートで生徒は成長するかと言う不安、それがスッと消えていきました。対面で始めていたとしてもその才能は変わらず発揮されたと思うのですが、リモートでも彼女が真面目に練習を続け、アドバイスを吸収していってくれた結果だなあと感じました。

去年から長期休暇中に対面レッスンに来てくださるようになったのですが、初めてお会いした時、不思議とそんな気がしなかったのです。リモートで毎週会っていると、リアルで会ってもあまり違和感を感じませんね。

レッスンの方法は色々とあるけれど、やはり本人の「好き」が一番大切。そしてその「好き」を支えるご家族のサポート。この生徒さんを見ているとそれを強く感じます。そして講師である私の役割は、画面越しであれ小さなことも見逃さず、直すところは時間を掛けてでもとことん直す。妥協は絶対にしない。音楽に、生徒に真剣に向かい、そして良い時間を過ごす。楽しいレッスンは「好き」をもっと大きく膨らませることができると信じています。

rieando

はじめまして、安東理恵です。 桐朋学園大学を卒業後、90年代に渡米。2021年に帰国。現在もリモートでアメリカ在住の生徒たちを教えています。 email: rieandopiano@gmail.com

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