見せる指導で生徒が変わる−短時間で成果を出す方法

なぜ練習が嫌いになるのか?

「なぜ練習が嫌いになるのか?」と聞かれれば、多くの人が「面倒だから」「時間がかかるから」と答えるでしょう。でも、嫌いとまではいかなくても、「あ〜、練習しなきゃ…」という気持ちになったことがある人は少なくないはず。私自身、昔は練習が嫌いだったので、その気持ちが痛いほどわかります。

小学生の頃は「10回練習したらシール1枚」といったご褒美方式でやる気を出すこともできますが、子供はすぐに飽きてしまいます。そして、ただ繰り返し弾くだけでは音楽的な成長に結びつきません。「間違えなければOK」の演奏になってしまい、音楽の本質からは遠ざかってしまうのです。

先生が導くべき練習のステップ

先生にただ「ここを弾けるようにしておいて」と言われても、生徒は何をどうすればよいのかわかりません。

例えば、料理のレシピが「美味しいカレーを作ってください」としか書かれていなかったらどうでしょう?食材の種類や分量、調理手順がわからなければ、初心者は戸惑うばかりです。音楽の練習も同じで、演奏の完成形がどんなものかはわかっていても、そこにたどり着くための手順が示されなければ、生徒はどこから手をつけていいのかわかりません。

楽譜の読み方、リズムの捉え方、指の使い方、表現の仕方など、練習にはさまざまな要素があります。ただやみくもに弾くだけでは効率的な練習にはなりませんし、上達もしにくいのです。具体的な方法が示されないと、「どうせ練習してもできるようにならない」と感じ、やる気を失ってしまうことにもつながります。

だからこそ、練習の方法をしっかりと学ぶことが大切なのです。

練習嫌いの超感覚人間が練習魔になるまで

私は大学卒業まで練習が嫌いで、「なるべく練習しないで済ませたい」と思っていました。そんな私が最終的には「一日12時間練習しても足りない!」という練習魔になりました。その転機となったのが、ポーランド人のピアニストとの出会いです。

彼は私にこう言いました。

「最初は真似したっていい。巨匠の演奏を大いに聴き、真似しなさい。そのうち自分のものになるから。」

クラシック音楽には「歌まね」のような文化がないので、当時の私は「演奏の真似をしていいの?」と驚きました。しかし、試しに巨匠の演奏を繰り返し聴き、気に入った部分を頭に思い描きながら練習してみると、ある瞬間から「自分のもの」として弾けるようになったのです。

実演販売スタイルのレッスン 〜練習の仕方を見せる大切さ〜

生徒を教えるようになり、練習を「やらせる」のではなく「やりたくなる」環境を作ることが重要だと気付きました。そこで私が取り入れたのが、「実演販売スタイル」のレッスンです。

効率的な練習方法を知らない生徒たちに、ただ「もっと練習しなさい」と言っても意味がありません。そこで、レッスン中に実際にどのように練習すれば良いのかを具体的に見せます。

例えば、テクニック面では、難しい箇所をただ繰り返し弾くだけではなく、リズムを変えて弾いてみる、片手ずつ練習する、テンポを落として細かく確認するなど、実践的な方法を示します。

手の位置や腕の使い方を見直すだけで、驚くほど弾きやすくなることがあります。特に、部分練習はとても重要です。難しい箇所があれば、いきなり全体を弾くのではなく、2小節ほどに区切って丁寧に練習します。その後、前後のフレーズとつなげることで、スムーズに弾けるようになります。

レッスン中にこの作業を一緒に行うと、ほとんどの場合10分程度で改善が見られます。長い時間は必要なく、短時間の集中練習を繰り返すことで、確実に自分のものになっていきます。生徒が「おおっ、弾けた!」と感じることで、練習の効果を実感し、前向きに取り組めるようになります。

練習は筋トレと同じ

「一日12時間練習しても、翌日にはまた振り出しに戻っている」。これは、練習を続ける人なら誰もが経験することですが、がっかりする必要はありません。

練習とは、筋トレのようなもの。例えば、筋肉は一度鍛えたからといってすぐにはつかず、何度も負荷をかけることで成長します。同じように、音楽の練習も、何度も繰り返すことで少しずつ「できるようになっていく」ものなのです。

さらに、演奏は意外と体力を使います。例えば、30分以上の大曲を弾くとき、最初は「こんなの最後まで持たない!」と思うもの。でも、毎日練習することで体が慣れ、気づけば30分が「あっという間」に感じるようになります。これはまさにアスリートが長距離を走れるようになるのと同じ現象です。

練習嫌いの生徒を変えるには

結局のところ、「練習=つまらないもの」という固定観念を変えることが大事です。そのためには、

  1. 効率よく練習する方法を見せる
  2. 短時間でもどれだけ変わるか実感させる
  3. レッスン内で成果を体験し、自信につなげる

この3つを意識するだけで、練習に対する考え方が大きく変わります。

かつての私のように、練習が苦痛だった生徒が「もっと練習したい!」と思えるようになる。そんな変化を生むのが、効果的な練習方法を知ることなのです。い!」と思えるようになる。そんな変化を生むのが、効果的な練習方法を知ることなのです。

練習方法は色々とありますが、具体的な練習の仕方については、ブログの中で少しずつお話ししていこうと思います。今回はこの辺で終わり。では、マッチョなプロコフィエフ3番置いていきますね。


rieando

はじめまして、安東理恵です。 桐朋学園大学を卒業後、90年代に渡米。2021年に帰国。現在もリモートでアメリカ在住の生徒たちを教えています。 email: rieandopiano@gmail.com

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