ピアノの練習とは?
ピアノの練習は、すればするほど良いのでしょうか?多くの先生の答えは「YES!」でしょう。長時間ピアノに向き合うことで、楽譜を深く読み解き、技術を磨き、さまざまな音色を表現できるようになります。これによって、演奏に深みが増していくのは間違いありません。
しかし、「ただひたすら弾くだけで良いのか?」という質問には「NO!」と答えます。
生徒さんのお母様から「うちの子はピアノばかり弾いていて、放っておくと何時間もピアノの前にいます」とご報告をいただくことがあります。それだけピアノが好きなのは素晴らしいことです。「慣れ親しむ」「愛おしい」と感じることは、音楽を楽しむうえで非常に重要です。子どもも大人も、何かを「好き」だと感じていれば、どんな状況でも頑張れるものです。
ただし、一つ注意してほしいのは、「自己流」になりすぎないことです。
以前、体験レッスンを受講してくれたご兄弟のお話です。二人ともピアノが大好きで、毎日ピアノの取り合いをして喧嘩になるほどでした。実際に演奏してもらうと、とても楽しそうなのは確かですが、手のひらを上下にひっくり返しながら鍵盤を叩いている状態で、私もムンクも叫びたかった!😱レッスンは受けていたと聞いていましたが、楽譜の読み方を教わっておらず、それは見たこともないような弾き方のオンパレードでした。アドバイスは言葉を選び、今の弾き方を否定しないように細心の注意を払いましたが、どんな言葉も受け入れたくなかったようで、結局レッスンを受講することはありませんでした。
このケースで分かるのは、「好きだから長時間弾くこと」と「練習すること」は必ずしも同じではないという点です。「好きなだけ弾いてください」とお伝えする一方で、技術向上を目指すためには「練習時間」を別に設けることが重要です。
「一時間」と言う壁
ピアノを始めてエントリーレベルを一通り終えた頃から、レパートリーが難しくなり、練習なしでは思うように弾けない場面が増えてきます。これまで20~30分で済んでいた練習では足りなくなり、それ以上の練習が必要になってきます。けれど、生徒さんによっては1時間と聞くと長いと思うかも知れません。
1時間の練習を目指すには、まず練習すること自体に慣れる必要があります。ピアノを弾くのは結構体力がいるので、小さいお子さんに限らず、まだピアノを始めて間もない大人の生徒さんも、少しずつ少しずつ練習時間を多くしていくことをおすすめします。特に大人の方は、練習中に緊張状態が続いて肩こりが酷くなったりすることもありますからご注意ください。
効果的な練習時間の目安
「小学生の自宅学習は学年×10~15分」と言われることがあります。例えば、小学1年生なら10~15分、小学6年生なら1時間から1時間半。小学校低学年で30分の練習では間に合わないことが多いかも知れませんが、中学年から高学年はこの目安をピアノの練習に当てはめても良いと思います。さらに、初心者には「5~10分の集中した練習を1日2~3回試してみて」とアドバイスしています。難しく感じている数小節だけを取り出し、楽になるよう練習を重ねます。量より質を意識し、集中できる時間だけ取り組むことで、自然と練習時間が増えていきます。
通し練習を繰り返すこと
ある生徒に「どのように練習しているの?」と聞いた際、「平日は10回通して弾く、日曜日は1時間練習する」と答えてくれました。努力はしていますが、「回数をこなす」練習では上達が難しいことが多いです。繰り返し弾くだけで音楽性を深めることが出来るかと言ったら、そうではありません。
そこで、レッスンでは苦手な所に焦点を当て、目的を持って弾く練習を進めています。弾けないところを正しく練習することで、そんなに時間をかけずとも弾けるようになることを体験してもらい、「家でも同じように練習してね」と伝えます。このように具体的な方法を示すことで、生徒は練習の意義を理解し、上達へとつながります。
一曲を仕上げるまでのプロセス
参考までに、新しい曲に取り組む際、私は以下のプロセスで練習を進めています。どのようにその作品と「共に生きて」いけばよいのでしょう。
- 譜読み
- 新しい譜面が目の前にある場合、まずはじっくりと向き合います。全体像を把握し、録音も聴きながらできるだけ多くの時間をその作品と費やし、音と楽譜に慣れるようにします。楽譜を読み込み、フレージングや指使いなどなるべく多くの情報を頭に入れ、ゆっくり練習に最も時間を割く期間です。私は中学生の頃からマッサージ師にも驚かれるくらいの酷い首・肩こり持ちですが、この時期は体が痛くなりがちです!慣れない筋肉を使うことも原因です。
- 部分練習フェーズ
- 譜読みも終わり、効率良く練習を進めていく時期です。細かく苦手を潰していきます。テクニックにフォーカスするのもこの時期からです。音楽的に弾けるよう、フレーズずつ取り出し、欲しい音色が出せるよう考えたり、フレーズのまとめ方を練習したり、アーティキュレーションを考えたりと、細かく細かく楽譜を読んでいきます。曲が長い場合、一回通してみると信じられない位疲れるのもこの時期。体がまだ慣れません。
- 全体の構成を意識
- 曲にだんだん慣れてくると、曲の大きなまとまりを更に意識するようになります。一曲通しても、例えば30分の曲であってもあっという間になってくるのがこの頃。不自然なフレージングになっていないか、フレーズやアーティキュレーションを表現するのに良い指使いになっているかなど、弾きやすくなるようまとめていきます。このくらいになると余裕があるので、楽譜の読み込みをもう一度します。見落としたところや、譜読み段階では思い浮かばなかったアイディアなど取り入れます。
- 本番に向けた通し練習
- 本番用に準備している場合、2週間位前から通し練習を増やします。朝起きてすぐにピアノに向かい一通り弾いてみるのはとても効果的です。午後から夜にかけてはふと時間ができた時などの繰り返しをしたりもします。例えば学校から帰ってすぐなどです。心も体も準備ができていない状況で通すことによって、準備できた状態で練習している時には気づかなかった新たな発見があったり、見直し点が見えてきたりします。そして本番と同じようにプログラムを通し、アクシデントに備えたり、通しの感覚を体と頭に覚えさせます。体を動かしてわざと心拍数を上げ、緊張した状態を作り出して弾いてみる練習なども場合によってはします。
量と質のバランス
練習は「量か質か」ではなく、「量と質」の両方を追求することが理想です。そのためには試行錯誤を繰り返し、多くの時間を費やす必要があります。もし練習方法が分からない場合は、先生に具体的なアドバイスを求めるのも一つの方法です。
毎日良い練習を続けることで、確実に良い結果が得られるでしょう。
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